【このレビューはネタバレを含みます】
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大学1年生の筧明日葉は、無い筈の門に行く手を阻まれたり顔中に黒い痣ができていたりの幻覚や体調不良に悩まされて、療養のために10年ぶりに父方の祖父母の暮らす田舎にやって来ます。その山中で明日葉は、着物を着た大柄な男と出逢います。不思議な会話をする男に、これも幻覚かと思ううちに明日葉はメガネを川に落としてしまい、ますます現実の世界がぼんやりとしてきます。やがて神社の裏手から続く果無山に棲む鬼の話を聞いた明日葉は、男は鬼なのだと思うようになるのでした。二十四節気や七十二侯、旧暦を語る鬼は、いるのかいないのかわからない真昼の幻影のようです。鬼と会う前にちらりと姿を見せる少年も謎めいており、それらとは対照的に明日葉の兄をよく知る村の青年夏輝は明日葉の苦手な現実を象徴するかのようにくっきりとした存在です。兄の一至は全てに卒なく優秀で、明日葉のコンプレックスの大きな要因なのでした。メガネのない明日葉が五感で感じる豊かな自然の織りなす四季が美しいです。ひらひらと視界をよぎる夢虫、恋しい人が夢に現れるという菊枕など夢を示唆するディテールが積み重ねられ、最後に明日葉は自ら夢か現かを選び取ります。モヤる個所もありますが、作品全体の雰囲気でなんとなく流せました。